審査員講評


大島依提亜 (グラフィックデザイナー)
確固たるテーマのあるコンペティションであるためか、応募者の方々のスタンスが単純な画力勝負のものよりも、本の内容にどれだけ深度のあるアプローチを見せられるか、それによってどういう戦略を持つか、で勝負している人の方が少し際立っている印象がありました。グランプリを受賞された大場さんは、通常装画ではやや分が悪い立体作品を、撮影トーンまでコントロールすることによって絵画的な見え方に昇華しているので、装画として十分にフィットしているし(「シャイニング」はもう少し恐い方が)、準グランプリの佐俣さんは絵自体はオーソドックスな手法に基づいて描かれているものの、というよりそれであるが故に、アイデアの巧みさが際立っていました。奇しくも佐保さんんとイメージが被ってしまい、惜しくも受賞には至らなかった山口美波さんも、「種の起源」というお題での回答の秀逸さから審査会場でかなり盛り上がってましたが、如何せんデッサンそのままといった作風がストレートすぎて、今回は絵の個性も存分にあった佐俣さんに軍配があったようです。もうひとつ、今回のコンペで面白かったのは、僕の個人賞を取られた伊佐さんのように、絵から発せられる声は極端に小さいけれど、何故か際立つ絵に出会えた事です。たぶん伊佐さんの作品は実際に装画で使われる場合、印刷がとても難しい事が予想されるのですが、そうであればあるほど、装丁者魂に火をともすような高揚がありました。というように、最終審査の段階での個人的な思いは、装画で装丁したらさぞ楽しいかろうという観点のみで望んだので、本当に楽しい審査でした。

高柳雅人 (ブックデザイナー)
今回で三度目の審査となりました。私が審査した過去二回よりも応募者・作品数は多かったはずですが、一次審査までは今までになくスムーズに進行しました。
これは多数の作品が着想・構図に於いて類似していたためで、そのような作品は早い段階での落選となりました。特に『注文の多い料理店』『ふたりのロッテ』はその傾向が顕著で、課題に選んだ方は損をしたかもしれません。逆に『種の起源』は珍しくノンフィクションの課題でしたが、ストーリーに引っ張られないせいか、自由で面白い発想の作品も多かったように感じました。
物語に寄り添い、ストレートな表現で魅せるはもちろん重要な力ですが、アプローチを変え、自分なりの発想で物語を引き寄せる力も必要です。このようなコンペの場ではそれが他者との差異となり、実際の仕事では抽斗の多さにつながります。また、コンペでは審査員が見る意志を持って細部まで見てくれますが、仕事では通りすがりに一瞥するだけの人達をも立ち止まらせる何かが必要です。“人の眼を惹く”とはどういうことなのか、それを自分ならどう実現できるのかを考え描くことも大事だと思います。
審査の最終段階ではいつものように悩まされることとなりました。グランプリこそほぼ全員一致でしたが、最終審査~各受賞者は、残った作品との組合わせの運もあったかと思います。個人賞は時代物からも受賞者を出したかったのですが今回はかないませんでした。絵が使用されることが多く、即戦力としてすぐに仕事につながるジャンルなのでどんどんチャレンジしていって欲しいです。

ミルキィ・イソベ (ステュディオ・パラボリカ/ブックデザイナー・アートディレクター)
全体を見てまず思ったことは、文章を再現しようとしてしまっている絵が多いことです。装画というより、挿絵になっている絵が多かったということでもあります。もちろん、挿絵だって、説明に堕したら世界を拡げることはできません。

「注文の多い料理店」は、あきれるほど多くの方が、猫の顔をイメージした家に二人の男性が向かう絵柄を描いており、表層的なレベルにとどまった作品が多かったです。描きやすい文章というものは、そのまま描いたらいかに陳腐なものになるかを思い知らされました。選ばれなかった中に、ひとつ、ユニークな作品がありました。森の中の木がだーーっと図案的に並んでいて、ぽつんと1箇所、赤い家があるだけの作品でした。アプローチはとても良いと思ったのですが、いかんせん、絵が明るい世界になりすぎて、ここに潜む不穏さなどが表現できておらず、選からもれたのです(惜しい!)。

「エレンディラ」は、理解と解釈のレベルがさまざまで、絵は上手いが理解が浅い、という作品は選びがたく、その逆で、本質に近い、物語がもつ深く怖い部分を描いた作品は、こんどは、絵の力が足りなかったりと、とても残念でした。そのような傾向は他の課題にも共通でしたが、特に本作はきちんと読みこんでほしかったです。

「ふたりのロッテ」も、タイトルの文字通り、同じ少女を二人並べて描いたものが圧倒的に多く、ちょっとしたディテールにこの物語のメッセージの方向性を入れ込めたかどうかが、装画としては、ポイントと思いました。受賞作はロッテとルイーゼの二人の性格の違いを感じさせる微妙な表情やしぐさの違いがとても生きており、かつ未来への風が吹くような空気感が物語へといざなってくれ、手に取りたくなる魅力を持っています。ダントツの出来でした。

「種の起源」の装画は、通常、理系っぽくななりがち。しかし、この作品は、未知への旅立ちの予感と、そこで出会う生命たちは、人間よりもずっと素敵で魅力あるものなのだという、現代的な豊かな生命観を感じさせ、それが今現在の装画としてとてもふさわしく思えました。

自由課題の作品は、私が知らない書物も多く、絵の力量(チャームがあるかなども)によってのみ判断することになりました。「いい絵/魅力的な絵」が選ばれるので、それはそれで、選考選者の無知ゆえに、とてもユニークなアプローチの作品を取りこぼした可能性もあり、少し複雑な気持ちになりました。

大矢麻哉子(ギャラリーハウスMAYA)
毎年参加してくださるかたに加えて多くの新しい参加者が増えました。 今年の結果は、審査員のテイストが特に明確にでた様に思えます。 個人的には、入選者の中には受賞に匹敵するレベルの作品もあったと感じます。後ろ髪を引かれるというのはこういうことか、と思いながらの少々辛い思いの審査になりました。ここに個人的にとても心惹かれ、さらに他の審査員たちも迷い、お仕事でも活躍している方も含め、これから大いに楽しみだと思う方々の名前(敬称略)を挙げさせていただきます。 いわがみ綾子、岩掘敏行、印南綾乃、小川メイ、おぎわら朋弥、長田恵子、尾崎千春、ごとうさちこ、Tsuin、naggy、八朔もも、久勝堂、ミス シルコ、motori・・・挙げだすと切りがないのですが、他にもたくさんいらっしゃいました。 毎年ながら又コメントで、気づいたことなどお伝えします。 参考の一助にして下さい。

審査結果 受賞作品