vol.11 審査員講評

大滝裕子/新潮社装幀室
電子書籍が話題になり、「本」の形が徐々に変わってゆくかもしれない過渡期に入っています。そんななかで、「本」を装うために描かれた絵が、これほどの数(総1613点)集まったということに、本の装幀を仕事にする者としてホッと気持ちがあたたかくなったことを、まずはお伝えしておきたいと思います。そして応募作品を拝見しながら、従来の「本」の形に対する愛情をひしひしと感じ、作品を真剣に選ばせていただくのはもちろん、日々の装幀という仕事に一層気持ちをこめて取り組まなくては……と緊張感と刺戟を与えられました。

自分が描きたい方法で、描きたいものを描く。もちろん、それが装画の描くことの基本です。その上で、〈自分の作品〉をどう見てもらうか、自分の解釈を表現し、タイトルや著者名が入ることをイメージし、装画として成り立たせる。なかなか難しいですよね。うーむと迷われたら、実際に書店に並んでいる本をなるべくたくさん、そういう目で見直してください。このタイトル、この著者、この本に、こういう装画が組み合わされているのか、と何かの発見があるはず。自分の描き方を見直すヒントをみつけたり、自分だったらこう描くのになとイメージを膨らませたりしてもいいでしょう。実際に仕事として成り立っているものを知ることは、自分の方向性を確認し、自分の押し出すべきところや弱点をみつけるのに、おおきな助けになると思います。いい本がたくさんあります。

受賞者以外で個人的に気になった方は、国崎正美さん。完成された画面、色の選択の妙、そしてタイトルチョイスのうまさ!「嫌われ松子の一生」を装幀してみたいと思いました。suzukieさん、園田原一郎さん。この打ち出し方、とても好きです。ドーンと印象が強くて、その中に「変身」の可笑しさや哀しみも感じられました。三村晴子さん。細部まで丁寧で完璧な筆使い。他の作品も是非、拝見したいです。あべちほさんも優しくたおやか。三村さんあべさんのお二人は時代物を描かれたら、すぐに仕事に繋がる力をお持ちだと思います。

関口聖司/文藝春秋デザイン部

各々の「思い」のエネルギーに圧倒され、いきなり1000本ノックを受けた感じでした。そしてたくさんの心惹かれる作品と出会うことができました。結果は6枚ですが、おそらく我々がキャッチし損ねてうしろに転がっていった作品の中にも大きな可能性があることと、今でも頭から離れなくて気になっている絵がいくつも残っていたことを初めに伝えておきます。
多種多様な表現を同一線上で見比べる難しさも実感しました。
課題の本は改めて一読した上で、どれくらい小説に「感応」しているのかを気にしながら拝見しました。
姫野さんは『変身』の世界にハマるのを楽しんでるなと思いました。割り切っているようで恍けた味もあり、シャープなようで朴訥さがあります。このような相反する要素を兼ねることは大事だと思います。ドアの向うから人が覗いてるのもミソですね。『悲しみよこんにちは』の海の絵も好きでした。
石川さんの絵は一目見て皆が笑顔になるような作品でした。養分豊かなイメージが魅力的です。
三好さんは小説のエッセンスを手ぶらでというか、自分の中からわき上がって来るものを最大限活かして描かれた印象で、その自由さと透明感が逆に小説に寄り添えているように見えました。
今回は多くの作品を見せていただき、今更ながら手仕事の魅力というものを強く感じ、書物への情熱を体感することができたことを嬉しく思います。

藤田知子/HEMP主宰
今回コンペの審査をしながら、ある程度作品が絞られてきた段階で「“装画”じゃなく、ひとつの“絵”として見るならこっちの方がいいんだけどなぁ」と何度か悩んだ。それは作者違いの作品でもそうだし、同じ作者の応募作のうちどれが良いかを選ぶ場合でもそうだった。グランプリに輝いた姫野さんの作品の中でも、同じ「変身」を題材に描かれた別のもう1点の作品の方が、絵としては良かったと思う。それでも、グランプリに選ばれた作品の方が、装画にふさわしいと判断した。この2点は審査員全員でしばらく悩んだが、最後は一致して決定した。
装画とはやや特殊だと思う。その理由のひとつに、(タイトルなどの)テキストとの共存という点がある。絵としては完結しているが、どうしてもテキストと共存できない作品があった。その反対で、絵としてはやや不完全だが、文字を入れると面白いデザインになるだろうというものもあった。
継続して安定した絵を描けそうかどうかということも、最終選考が近づくにつれ重視していった。ざっくりとした大胆な作品にもひかれるものがあったが、計算か偶然かの判断が難しかった。今後のために付け加えると、そのような作風の人は、応募作品数を増やすことが自分のチャンスを広げることになると思う。
実は、一番悩んだのは個人賞である。
「この作品を使ってこの本の装丁を作りたい」と思うような作品が複数あったからだ。私が個人賞に選んだ中井さんは、最後までグランプリ候補に残っていた。賞を受けるのにふさわしい作品だった。入賞作品は審査員のあいだでも評価がほとんど一致していた。グランプリ・準グランプリはもちろん、ほかの審査員が選んだ各個人賞の作品も、私自身が選んでおかしくなかったということをお伝えしたいと思う。
ユーモアに溢れた作品もいくつかあって、審査をしていてとても楽しかった。こっそり「特別賞」をあげたいと思ったものもある。


コンペの展示期間に、多くの応募者の方とお会いして、お話出来るのを楽しみにしています。

大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA主宰
今年も700人の参加者の作品を心を込めて真剣に拝見しました。
それぞれの独特な視点で描かれた作品はみる私達の感性を刺激し、そのエネルギーポテンシャルに圧倒されつつも幸せな気持ちにさせていただきました。今年の傾向として、テキスト、テーマに対して直球よりも変化球で対峙した方が多くみられました。テキストに対する咀嚼力や視点の広がりに幅がでてその結果、主観性の強い作品が増えたのかもしれません。一つのテキストが受け止め方でこんなにも違って来るのだと、なかなか面白く感じました。
入選されなかった方にも、審査員が興味を持って連絡先をチェックしたり、反応がよかったりで、今年もまた、いいお仕事に繋がって行く予感がして嬉しかったです。
私達も様々な形で応援します。お仕事関係の方々が、このコンペの結果をホームページでみるのを楽しみにして下さっていることは度々聞いております。
私達はいつでも迷った時や不安に思ったりしたときに一緒に考えつつ、応援をさせていただきたいと考えてますので遠慮なくご相談ください。
以下個人的に大変面白いと思った方たちです。
石崎静香、岡崎勝男、小園優、太田裕子、加藤佳代子、川原瑞丸、篠原知子、田沢ケン、寺澤智恵子、諸戸佑美、吉村賀代(敬称略)