vol.10 審査員講評

池田進吾/67主宰

そのまま装丁に使用される絵はごく稀だと思う。
一冊の本の装丁の仕事を引き受けたという事は、その本に対する責任が生まれる。
文章を読んで理解し、内容にどう寄るか個人で出来る限り時間をかけて的確な判断を下す。当然流行など関係ない。
課題が装画でなければ単純に好きな絵を選ぶだけでよいが、装画となると普段の仕事の時の様に厳しくなる。幾人もの鋭い感性を通り抜け、完成まで時間をかけて、ようやく本として陽の目を見る。
今回は審査員個人の感性で自由自在に弾かれ、そして残る。
全ての絵は装画として成り立つはずであると思いたいが、絵の中に文字を入れ込まないと装丁としては完成しない。魅力的な絵は多くあった様に思う。中には文字を入れ込むのを拒否している様な佇まいの完成された素晴らしい絵がいくつもあった。
文字を入れ込まないで、それだけで観ていたかった。

緒方修一/ラーフイン主宰

装画を描く。
その手始めに何をするか。
まずは本を読んでみるという人が多いようですね。
ある意味それは仕方のないことです。
原稿を読んで描く。
それほど誠実な態度はないし、
そうしないと何を描いていいのかさえわからないし。

……ただ、読んで絵筆をとる前に、
すこしだけ考えてほしいことがあります。
完成された本の表紙を観る人。
その人たちは、その内容を知らないのです。
知らないから興味が湧くし、想像がふくらむ。
そうしてはじめて、本に手が伸びるわけです。

だから最初に想像して欲しいのです。
いったいどんな本が、目の前にあったら〈自分は嬉しい〉のか。
私だったら、見たことのないものや、新しいものだったら嬉しいなと
思います。
だからそんな絵だったらいいのです。

そうしたことが、読んでしまうと不思議と見えなくなる時があります。
だから私は、この内容にこの絵は合ってるな、という視点では絵は見ない。
これは広告の絵や、感想文じゃないのだから。

しつかり日々を生きてる人なら、
文章を書く作家に比べて、感性において劣るところなど、
どこにもないと思います。
むしろ作家が想像することもできなかった場所に、
絵をかく人は連れて行ってあげることができます。

グランプリも個人賞も、まったく迷うことはありませんでした。
これからも、誰も「スタート!」とは言ってくれないので、
今すぐ本気出して、ただ者でないことを、
証明してくれたら嬉しい限りです。

平川彰/幻冬舍デザイン室室長

コンペ向きの絵と仕事で使いやすいイラストレーションとでは必ずしも一致しないのはもはや常識。かつてのようにコンペ受賞→発掘→仕事の近道という構図は今は皆無に等しい。展示において圧倒する力を秘め、しかも仕事として柔軟に対応できる可能性が備わる作品…、そんな条件を合議制で選考する「装画を描くコンペティション」は数有るコンペの中でも相当な難関と思われる。今回の各賞に残った作品は、そんな希望が持てるかもしれない、そう思わせたもの達だ。グランプリの末次麻衣子さんは4枚の作品を応募、そのどれもが違う匂いを醸しだし仕事よりも個展を見たいと思わせた。準の深谷利枝さんは、ピンポントで決まった構図が安心感を与え仕事でブレることはないだろう。個人賞の松本里美さんは選んだ本の趣味の良さに特に惹かれた。反面、てっとり早く名前を売りたい、とりあえず誉められたい、あわよくばお金を得たい。そういう志の低い絵の多さも目立った。全体の画力が低下しているわけではないのだろうが、イラストレーションはアートより簡単で漫画より効率が良く、楽で報酬も良い。世間ではそんなデタラメが囁かれ、安直に考えている描き手もいるのではないだろうか? 攻めるよりも逃げる絵の方が多い、数多く寄せられた作品を見ながらそんな意識の低さも感じた。
今後、装画は一般的な商品価値としてでなく、よりマニアの世界に進むだろう。そんな流れを鑑みて、売れる売れない仕事に繋がる繋がらないではなく、より趣味性の高い絵を描くことが臨まれる。

大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA

あっという間の10年でした。沢山の出会いがありました。
その間、多くの学校や塾で若いイラストレーターたちが力をつけてきました。
多くの講師の方や、先輩イラストレーターの方達のアドバイスによって、全体の画力がアップしてきているように思います。

また、北村人さん、ヒラノタカユキさんなどの受賞者たちの各方面での活躍は大変うれしく、私どもに力を与えてくださいます。
8回目の準グランプリMICAOさんは今年5月に新書館の書籍で素晴らしい装画と挿絵を手がけ、さらに9月には続編が予定されがんばっていらっしゃいます。
コンペティションに入賞しなかった方でも、後々たくさんお仕事をしていられますので、どうぞ、がんばっていろいろなコンペティションに参加なさるといいですね。ご自分の好きな世界観を大切に、切磋琢磨してonly oneの魅力をつくっていきましょう。ギャラリーとしても応援していきます。

今回の松倉さんの作品は女の人が誰でも持っている可愛さ、デリケートな感性、ちょっとした不思議感があって、自分の部屋におきたくなる様な気持ちになりました。
深瀬さんは全員の審査員がうまさで抜群という点で一致。安定した力で画家としてコアなファンをもっていける方だと思います。
他にも米増由香さん、ヒグチユウコさん、北原明日香さん、越井隆さん、なかむら葉子さん、加藤健介さん、小原さおりさん、クボ桂太さん、佐藤晶美さんなど最後まで迷って悩みましたが、いずれも力のある方なのでがんばっていただきたいです。これからも注目しています。