COMPETITION


審査員講評

装画を描くコンペティション vol.5 審査を終えて





緒方修一/ブックデザイナー ラーフイン主宰

多感な青春時代に偶然のように出会った一冊の本。その本のもっていた何気ない高揚感と、ささやかなスリルこそが、出版に携わっている人たちが、今もその仕事に関わり続けている出発点になっていると思う。本来は、その理想の一冊さえいつも手元に置いておけば、人は自分に降りかかるすべての難局を上手に片づけることができると思うし、必要なときに頁をめくれば幾度となくその感動を実感することができるはずだ。それなのに何故これだけの数の本を、日々出版し続けなければならないか。そういうふうに思うと、自分はその失ってしまったその一冊を、実は作りながらで探しているのではないかと思うときがある。これでもないこれでもないと思いながら。
今回のコンペティションでは、バランスや時代の気分でなく、何だかわからないけれど人を惹きつける空気に満ちた作品をグランプリとして 推した。ダークな中にアイロニックな視線と、のほほんさが漂っている。何よりも忘れることのない絵である。これならブコウスキーと互角にやり合えると思う。個人賞のほうも、小説のもったしんしんとした淋しい情感を、頑固なまでに自分の世界としてトレースできている。この個の強さは傑出しており、将来的にこの視点を持つ才能は絵だけではとどまらないだろうと思う。
全体的には、書籍を〈四六判縦長〉というフレームとしかとらえてないエントリーが多いと感じた。本の形は無限にあると思って欲しい。帯やタイトルの入る場所などへの配慮も、ありがたい反面、魅力的で《嫉妬を買う》本づくりという方向性には程遠く正直がっかりした。
装画を描くということは、そのテキストや雰囲気に歩調を合わせることではなく、自分こそが時代の気分を作っている当事者だという、矢面に立つ自覚があってこそ丁度良い。


作田えつ子/イラストレーター

流行は刻々と変化し、つい最近新しく見えたものは次の表現に移り変わろうとしているサイクルの早さを感じます。スタイリングに敏感であることは素敵なことですが又一方で「これを描きたいのです」という意思を持つ画面の強さには圧倒されるのです。
入選とグランプリの差は近差だと思います。そこでグランプリにたどり着くのは、より繊細な何かです(表現の手法のことではありません)例えばその作品を制作する人の心の匂いのようなものです。
でも人が人の作品を選ぶ訳です、絶対的なものはない訳です。選考にあたっての最低知らなければならないことや基準点はあったとしても。
なので選考にもれた人は落胆しないでいろいろなチャンスに明日からトライしていけばいいことだと思います。軽く、深く。
具体的には装幀サイズにする場合あまりデフォルメに片寄る画面はイメ−ジが変わります(例えば絵が痩せるということ)又計算しつくされたフォルムでは計算が全面に出て描くと言う大切な部分が欠落して見えます。 それとどんなに魅力的な作品であってもひどく横長でいったい何処を表紙にするの?というものは今後考えなければなりません。
私は特別賞を加藤休ミさんと くまあやこさん とで迷ってしまったのですが、作品の持つ圧倒的な存在感を重視して、この作品を選びました。


BUFFALO. GYM(永松大剛+平木千草)/ブックデザイナー

まず最初に、私たちに今回、審査をするという機会を与えてくださった、ギャラリーハウス・マヤの方々に感謝いたします。大変よい勉強をさせていただきました。
■永松:今回の審査の過程で強く感じたことは、『装画を描く』というテーマとどう対峙するのか? ということ。普段仕事をする際、その本の内容を知ったうえで装幀をしますが、今回の『装画』の中には描かれている本の内容を全く知らないものもあり、全て同列に並べて賞を決定するのは難しいことでした。それは逆に、応募する側にも求められるはずで、イラストを描く際に、内容をどのように咀嚼するかは、もっと突き詰めていいテーマだと思います。
今回残念ながら選外になってしまった方たちの中に、すばらしい作品がたくさんありました。実際の仕事をしていくと、グランプリになることより大切な経験がいっぱいあります。みなさんがんばってください。
■平木:「自分の味を貫いていってほしい作品」と、「う〜ん?と思う作品」とパッカリ別れていた気がします。終盤の選考に残ったものは、前者のもので、デッサン力のある感を受けました。ただ、後者の方にメッセージを残すなら、「週に1〜2回は『デッサンの日』と決め、鉛筆とスケッチブック持ち外へ出て風の音や匂い等、五感をフルに使い、風景のパースや人間や動物の動きを観察し、デッサンもっとしてほしい」と思います。平面的なイラストも目で見た時の3次元を絵にする力もってこそ、それを打破し平面にできると思います。
グランプリ、準グランプリは「これだ!」という強さには欠けていたと思います。自分の好きな作品(たくさん選外になりました)と、グランプリに選ばれる様な「完成度のある作品」は違うのだな〜と感じた審査会でした。


福田美知子/講談社・文芸図書第二出版部 副部長

限られた時間内に大量の絵を見て判断する作業は、ある種の緊張を強いられた。が、一方で、たくさんの新しい才能と向きあうことができ、たいへん楽しい審査でもあった。
イラストとしてすばらしい出来といえるものは、いくつか記憶に残っている。しかし、装画であることを前提にして見ると、絵のうまさだけでは心引かれるものとはならない。
テキストの内容(あるいは構成要素)を理解したのちに、いったん解体し、再結合したうえで表現する、そして絵の向こうには、その本の読者がいることを忘れない、それが装画の仕事ではないかと思う。
絵柄を見ただけで、本のタイトルが容易に予想でき、かつそのとおりのタイトルが記されているイラストが思いのほか多かったことは、ただただ残念である。本当に当該の本を読んでいるのだろうか、タイトルだけでイメージを喚起して描いているだけではないのだろうか、そんな気持ちにさせるイラストが多かったように思う。
絵がうまいのは当たり前。個々の描き手の感受性がほとばしっている作品を選びたいと思ったが、果たしてそれができたか、あまり自信はない。


大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA主宰

このたびは突然の入院のために審査が出来ず、大変失礼をいたしました。
ご応募いただいた作品は、退院後すべて拝見させていただきました。たくさんのご参加ありがとうございました。
何回か応募して下さっている方々の作品は、ある種の親しみと、うれしさが混じった気持ちで心をこめて拝見しました。
的確に力をつけている方が多く、このようなコンペを一つのきっかけとして、本づくりの第一線で活躍していらっしゃる方々の目に自分の作品をプレゼンテーションしてゆくことの意義をつよく感じました。



審査結果 受賞・入選作品一覧