COMPETITION


審査員講評

装画を描くコンペティション vol.8 審査を終えて





祖父江慎/コズフィシュ

僕は今回2度めの審査になるんですが、ギャラリーハウスMAYAさんのコンペに応募される作品って、他のコンペよりも絵画的なイラストが多く、独特で楽しかったです。
特に異彩を放っていた作品は安藤貴代子さんの描かれた「蝉しぐれ」でした。時代小説のために描かれるイラストって、ついつい型にはまった見覚えのありそうなものになりがちなんです。しかし、この絵は新鮮で爽快、とっても斬新です。連作で4枚の応募でしたが、連作としてバランスもばっちりでした。全体を通して色の使い方と大胆な構成が気持ちいいです。牧文四郎少年の握り拳もきいてるぞ。グランプリまちがいなしです。
君野可世子さんの「ロリータ」は、安定したうまさが感じられる。まっすぐにこちらを見ている少女がいいです。独自の世界観のある絵で好感が持てますが、あえて言うとすれば、物語内容との関連性がもう少しあったほうが良かったかもしれません。
入選枠からはずれた作品のなかにもステキな作品が多く、入選作のしぼりこみは、かなり悩みました。
受賞作から外れてしまったイラストのなかでも、特に松田水緒さんと曽根愛さんについてはパーフェクトな画力を感じました。


高柳雅人/ブックデザイナー

第4回に続き、2度目の審査をさせていただきました。
今回は課題となるテキストがあったので、前回よりも仕事モードで見ることができたと思います。
審査の途中で「この作品で決まりだな」というような差は無く、実際上位に残った作品には、どれもグランプリの可能性があったと思います。
また、コンペという性質上、すでにイラストレーターとして活躍されてる方、今までに受賞されている方たちには厳しい審査結果だったかもしれません。そういう意味でも、入賞入選は紙一重でした。
そんな中、グランプリの安藤貴代子さんの『蝉しぐれ』は、美しく独特な色彩感覚を応募作すべてに発揮できていて、安定した実力を感じました。
準グランプリの村松葉子さんの『ウルトラマリン』は構図・ディティール・色の配分などが本当に素晴らしく、コンスタントにこのレベルの作品を描くことができれば、沢山の仕事につながると思います。
個人賞は、素直な可愛らしさに魅かれ、吉田和代さんの『青い鳥』を選ばせていただきました。
そして、受賞には至りませんでしたが、松永賢さんの描く人物の目が強く印象に残っています。絵の力は抜群でしたが、装画としては題材とマッチしていなかったのが残念です。
2度の審査を通じて、「装画」というジャンルのコンペにこれだけ多くの作品が集まることに、驚きと喜びを感じました。そして、多くの才能と出会えたことに感謝しています。自分自身にとっても勉強になりました。
いつか、みなさんと仕事の現場で出会えることを願っています。


名久井直子/アートディレクター

普段はまずテキストがあり、それを念頭にこちらから探していく作業が多いのですが、いっぺんに、たくさんの世界が目の前に広がる機会に恵まれて感謝しています。前回にひきつづき、課題のテキストがありましたので、各々の解釈の幅がわかりやすく、また勉強にもなりました。
グランプリの安藤さんは、難しいと思われる時代物のなかでも群をぬいて個性的で、美しい色彩感覚に感動し、まだまだ時代物の絵には可能性があるという発見を頂きました。準グランプリの村松さんの『ウルトラマリン』は、選考の最初の段階からとても記憶に残っていました。この作品だけ、他の村松さんの作品と作風が違うように感じられましたが、是非こちらの方向でもっと描いてほしいなと思いました。個人賞で選ばせていただいた唐津さんの『ロリータ』は、わたしの思うロリータ像に近く、人物像の微妙な雰囲気をとても素敵に丁寧に表現されて いると感じました。
他の入選作品では、蒲田さんの「潮騒」は装幀ごころを刺激されました。曽根さんはどれも完成度が高く、特に『ロリータ』の思いきりのよい構図は本になったときに映えそうでした。やまぐちさんの描く人物の表情は魅力的かつ安定感を感じました。milkaさんも最初から気になった方の一人で、昔の絵本のようなタッチがありつつ、こっそり今っぽさがあってとても好きです。中桐さんのユーモアがある構図も装幀をしてみたい気持ちになりました。
賞に選ばれた作品や、個人的に心に残った作品は、絵自体の素晴らしさもさることながら、テキストの手触りのようなものが、ほんのり浮かび上がってくるようなものが多かったように思われます。自由課題で、読んだことのないテキストの作品でも、それを感じ、「読んでみたい」と思わせるものもありました。うまく言葉にできませんが、装画に大事なのはそのあたりの感触なのでは、と思いました。並べられている状況や、いろんな作風の混じる中での審査なので、すぐにお仕事に繋がりそうな方でも、賞にはならなかった方も多くいたことを付け加えておきます。
よかったらみなさま、他の作品も是非見せてください。楽しみにしています。


大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA

今年のコンペティションは突出した作品に出会う、というより全体のレベルが高かったといえると思います。
それだけに一点の応募に対して、他の作品ではどうだろうか、多数の応募の中にこの一点はすばらしいが同等の力をこれから仕事に出せるだろうか、など細かな点を含めての審査となり、選考するという作業がとても難しく思えました。
アレもよし、コレも面白いという感じだったのですが、テキストに対して各々が個性的な目線で描いていて、装画というジャンルの将来は面白いぞ、と嬉しく思いました。
グランプリは大胆な色使いと4点の平均した力量で、凛とした品の良さが加わってよかったです。

最終選考の蒲田育さん、金澤信さん、山下和さん、三浦宏一郎さん、てんてん堂さん、村上千彩さん、曽根愛さんはどの方もそのままグランプリの力量をもっていると思います。
個人的にフクバリンコさんのピュアで描くことへのひたむきな愛らしい作品、門坂朋さんのユニークなデザインと色の融和、瀬知エリカさんの時代物での可能性など、とても心惹かれます。
大きな花が咲くことを願っています。



審査員結果 受賞・入選作品一覧