COMPETITION


審査員講評

装画を描くコンペティション vol.7 審査を終えて





坂川栄治/坂川事務所

この審査は今回で2回目だが、他のコンペに比べてもMAYAのコンペに応募してくる作品はレベルが高いな、と思った。
それはきっとイラストレーターの装画に対する意識の高まりもそうだが、この企画を永く続けられている 大矢さんのイラストレーターへの愛情が届いてきた証拠なのではないだろうか、とも思った。
満場一致だった鈴木里江さんの作品は、他を圧して「華」があった。おめでとう。準グランプリのMICAOさんの作品は、テクニックの新鮮さとイマジネーションの豊かさがあった。私の選んだ個人賞の岡野その子さんの作品は、イラストレーションとしての"つかみ"とテーマの捉え方の確かさを感じた。
千数百点の中から選ばれた受賞者たちの作品はどれも素晴らしかったが、選ばれなかった人たちとの差はそれほどかけ離れたものではなかったことも報告しておきたい。
シビアなことを書くと、どんな賞をもらったとしてもそれで将来が保証されるわけではない。
賞はあくまでも群れの中での順位にすぎない。
コンペも大事だが、連絡をとり直接デザイナーや編集者に会って見てもらう営業も、また大切なアピール方法のひとつであることも忘れないでほしい。
本が売れないと言われながらもデジタル化の影響で、装丁も簡単で使い易い写真を使うことが多くなってきている。そういう状況であるにもかかわらず、逆に装画を描きたいというイラストレーターの数は増えている。
その意味では装画の世界は激戦区である。
今や本は文芸や実用の域を超えて、商品やパッケージとしての位置に近づきつつある。
これからは今まで以上に店頭で読者が手に取りたいと思わせる工夫や雰囲気が必要になってきている。大変だけど面白そうだ。
しかしイラストレーションがどんな時代にあっても「夢」を届ける役であることは変わらないのだから、引き続き頑張ってほしい。
加藤木麻莉さん、しろがねみきさん、小川恵美子さん、佐藤桂輔さん、玉木常夫さん、オギクミコさん、矢田辺寛恵さん、ヒロミチイトさん、アンドーヒロミさんは、よかったらうちの会社に連絡を取りポートフォリオを見せにきてください。


丹治史彦/アノニマ・スタジオ

私は書籍の編集者ですので、イラスト作品を見る時にはまず、本の中で生きるかどうか、という視点で作品を見てしまいます。本の顔ですから、あるインパクトは必要ですが、主張がありすぎる作品も使いにくい。その「押し引き」の具合を自分がどう判断しているのか、正直にいいますとこれまであまり考えたことがなかったように思います。
持ち込みの作品を拝見する機会は普段からありますが、これほどの作品を、短い時間に集中して見ることは今回が初めての、そしてとても楽しい経験でした。いままで「直感」とか「何となく」とか「気分で」などと誤魔化していたことを、意識して考えるという貴重な機会をいただいたことに、感謝いたします。
イラスト、しかも「装画を描く」というお題があってのコンペですから、おのずと選ぶ視線にもある方向性が加味されます。ひとことで言えば「時代との関係性」。いまこの時間のなかでその絵が求められるかどうか、ということでしょうか。いかに画力があっても、そこに接点が見いだせない作品は「装画」としては選べません。その意味では、今回の「赤ずきん」「鬼平」「走れメロス」というお題は非常に絶妙なテーマだったのではないでしょうか。大賞をはじめ入賞作に「赤ずきん」に題を求めたものが多かったのも、参加者それぞれの作品の解釈と時代性との接点を求めやすかったからか、と思いました。作品としての質が高くとも、最終選考の一歩手前でこぼれていった作品群には共通して、「この作家を選んで、今後仕事になってゆくのだろうか?」という一抹の不安がありました。好き嫌いや上手下手をこえて、読者の気分を滑り込ませる隙間がないと、装画としては魅力に乏しくなってしまうように思います。その意味でグランプリの鈴木里江さん、準グランプリの平沢美香さんの作品は、間違いなく今求められている「何か」を感じました。そして、そこから先につながってゆく「何か」も。佐藤昌美さんは「物語」との距離感がとても心地よく、ひとめ見て好きになりました。伊藤ハッピーさんの浮遊感のあるユーモア、佐藤桂輔さんの素朴なスタイリッシュさにも惹かれるものがありました。時代を感じて描くのか、たまたま時代に合ってしまったのか、それは戦略的に選べるものでもないように思います。すべての作品には、同じように強力なエネルギーをかんじました。でもエネルギーがあっても、だめなものはだめ。厳しいようですが、仕事として続けてゆけるかどうか、は、たぶんに運も影響しているのだと思います。そして、その運を引き寄せるもの、きっと実力のうちなのでしょう。


望月玲子/新潮社装幀室

出版社の装幀室というセクションにいますので、イラストファイルに目を通したり、目を奪われたりすることは日課になっているともいえるのですが、コンペという場で様々なイラストが並べられ隣り合わせになる光景は、普段になく刺激的なものでした。
装画のコンペという独特な静かな熱意が、皆さんの作品から伝わってきて(審査日は猛暑だったにもかかわらず)心地よいものでした。
今年度は例年になくテーマになる課題テキストがありました。その課題のセレクトにばらつきがありましたので、最終選考に残る作品に『赤ずきん』が多くなったように思います。課題作以外の自選作に個性を発揮できる作品と、課題作に相性がよい作品もありました。
グランプリの鈴木さんは、その表現力の強さに圧倒されました。既に鈴木ワールドともいえる世界があるので、テキストが付いていく感じがしました。準グランプリのMICAOさんは、丁寧な仕上がりながらもコミカルな味をも生かして好感が持てました。個人賞として選ばせていただいた加藤木さんは、赤ずきん他2作品も力作で甘くなりすぎない色使いと構成が素晴らしいと思いました。
赤ずきん合戦ともいえる今年、童話、絵本の挿し絵でなく装画として魅力的なものが選ばれたように思います。他入選の作品にもとても好きな銅版画の作品、目の端に焼き付いてしまうドローイングなど気になるイラストが沢山ありました。
はじめて審査員をさせていただきましたが、改めて「装画って何だろう?」と思うことしきりでした。テキストをどうポジション付けするかは大切なことだと思いながらも、最後はイラストレーションの持つ底力がテキストの位置づけを決めているのでは等と思いました。
これを機会に新たな才能に巡り会えた事に感謝致します。


大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA

自由に好きな作品を選んで描くことから一歩進んで、依頼された(あるいはされるかもしれない)テーマをどうこなすか…という点に主眼をおきました。
テキストを読み込み、自分のスタイルで装画という枠の中でつくりあげる…ということは皆がよく知っているものばかりだったので表現の仕方が面白かったです。
テーマとしては「赤ずきん」が圧倒的に多かったようです。
流れのようなものがあって、深い森の中にポツンと小さく真紅の赤ずきんを描いたもの、赤いずきんを象徴的に捉えた作品が目立ちました。
個人的には深瀬優子さんの強烈な個性、横山浪漫さんのデリケートな鉛筆画、松本里美さんのユニークな狼など好きですね。にしざかひろみさん、後藤貴志さん、しろがねみきさん、票はいずれにも集まったのですが、甲乙つけ難い魅力を持ち、最後までMAYA賞は悩みました。
安定した線の美しさで吉川さんを今回選ばせていただきました。
このコンペからは即戦力のイラストレーター達が育っています。
これからも心して作品を拝見させていただきます。



審査員結果 受賞・入選作品一覧 各受賞者のご紹介