COMPETITION


審査員講評

装画を描くコンペティション vol.6 審査を終えて





守先正/モリサキデザイン

「このデザインなら、僕は買わないね」
カバーデザインを著者にプレゼンした時、面と向かってそう言われたことがあります。
今回、審査をしながら、この言葉がずっと自分の頭の中にありました。
「この装画の本を、僕は手にとって読みたいか?」
グランプリに選ばれた曽根愛さんの「家族八景」は
その問いに、はっきり「読みたい」と答えることができる作品でした。

・誰かの真似でなく、自分の世界観を提示しているか?
・カバーとして巻いたときに、本が実際より大きく見えそうか?
・悲しい気持ちにならないか?
・閉じていない、開いた印象を受けるか?
・わかりやすすぎないか?
・本の内容に対して軽い裏切りがあるか?
そして、
・一目で、好きと思えるか?

以上のような視点で、ひとつひとつ作品を拝見しました。
その結果、グランプリに曽根愛さん、
個人賞に天羽間ソラノさん、それから北村人さんを推しました。
また、今回賞に入らなかった方の中にも
少なからず ぼくの心に響く作品がありました。
いつかぜひ一緒に仕事をしたいと思っています。
その時は、著者はもちろん、多くの人に
「読みたい」と言ってもらえる本にできると思っています。


大久保明子/文藝春秋デザイン部

2002年に続き審査員をさせていただいたのですが、前回に比べ、全体的なレベルアップを感じました。入賞に至らなかった中にも、すぐにもお仕事をお願い出来そうな方がたくさんいました。作品数も前回より増えていて、これだけの人が装画を描きたい、と思ってくれているのは嬉しいことだなあ、と思います。
「装画コンペ」の審査の基準は迷うところです。装画というのはまず本がありきで、例え好きな絵を描く人でも、その絵にあった本がないと中々お願いできません。しかし本に合ってそうでも好きな絵でなければお願いすることはないわけで。時々(好きだけど……装画としてはどうなのかしらん?)という思いが頭をよぎりながらも、結局今回も、単純に好きな絵を選んでしまいました。

グランプリの曽根愛さんの作品は群を抜いていて、受賞はすぐに決まりました。以前見たことのある絵よりも更に洗練され、しかし個性もしっかりある、いい作家さんだと思いました。
準グランプリの新目恵さんの作品は、実は装幀はしにくい絵です。しかし魅かれるものがあって選びました。装画という意味では「間」も欲しいところです。
個人賞の長谷川あきこさんの作品はとにかくかわいい。受賞作以外の黒髪のキャラっぽい子達より、この絵の方が好きです。バックもかわいい。タイトルを入れてみたい気持ちになります。

受賞された皆さんの今後のご活躍を期待します!


鈴木馨/集英社文芸編集部

 1000作以上の応募があった今回のコンペ。これだけの数の絵、イラスト作品を一気にみたのは初めての経験だ。 自分の好みの作品、強くてインパクトのある作品を選んでいった。
粗選びの段階で一作はみつかった。しかしその後、中々見つからない。粗選びが終わり、2次と進むにつれ、次第に憂鬱になっていった。 決定的な作品が見つからないのだ。女性をスタイリッシュにデフォルメした作品、時代物のカバーや挿絵として即使える高い技術レベルの絵、植物や生活雑貨を織物のような細密画にしたもの・・・。ハッとさせられ、じっくり見直し、上手いなあと感心する作品はあった。しかし、既存のイラストレーターの誰かに似ている作品が多い。受賞作として推せるものがない。
 深さ、意味、ストーリー性。その人でなければ描けなかった絵。構図、色彩、テーマ。 見るものを圧倒する力のある作品。例えば、初めて行った画家の個展で、初めて手にした画集で、あるいは編集部への持ち込み作品のカラーコピーの束の中から、何度か決定的な作品と出会い、その作品を装画に使ったり、又、その画家に新たに発注して単行本を作ったことがある。こうした本作りができたことはスリリングで幸福な体験だった。
 更に審査は進み、タイムリミットの二歩前位の時、二人の作品が目に留まる。一人は曽根愛さん。 他の作品より低い位置に置かれていたので気づかなかったが、シンプルな色使い、童心のある人間らしい人物。ストーリー性もある。個人的には彼女の別の応募作 「七瀬ふたたび 」も捨てがたい。
 やっと見つかった。 そしてもう一人、北村人氏。 スミ一色で人物や背景を飄々と描いている。 なんとも言えない可笑みとのびやかさ。 その裏に隠された孤独と哀愁。何より人間くさく、ストーリー性が豊かだ。 何年ぶりかの出会いだった。 素晴らしいコンペに参加できたこと、心から感謝申し上げる。


大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA

今回の応募作品を前にして 選ぶ という作業がいかに大変なものか、今更ながらに審査する責任を重く感じました。
6回目を迎えて感じたのは、応募作品に優劣というか「力量の差」みたいなものが年を追う毎にどんどんなくなってきている、ということです。 言い換えればダントツの作品がなくなってきたかわりに、全体的にレヴェルがアップして 最終に残った作品はどれがグランプリでもおかしくない、という状況になりました。本当に今回は審査票もわれました。
そういう訳で最終的に 今回は 以前とちがったカタチで 多数の方が入選ということになりました。 安定した力をもっている方々も多く、そういう方のテキストに対する読みとそれを表現する力には新鮮な感動もありました。 一応応募して下さった皆さんには、つたないコメントをかいて返却させていただいております。審査の途中での審査員のコメントなども織り込んでおります。皆さんの装丁というジャンルにたいする情熱を本当に嬉しく思い、一生懸命コメントさせていただきました。なにかの折りに思い出していただけると嬉しいです。
このコンペからはほんとうに多くの才能が巣立ち、期待され注目されています。どうぞこれからも、好きな本のイメージをどう伝えるか 私どもといっしょに楽しみつつ TRYしていってください。



審査結果 受賞・入選作品一覧 各受賞者のご紹介