COMPETITION


審査員講評

─装画を描くコンペティション Vol.2 審査を終えて─





今回は、応募の絵と選んだ本を見比べながら、それぞれの作者がどのようにイメージを創って いったのか、わかるような気がして楽しみながら審査しました。
完成度に多少の差は感じられましたが、絵の優劣の判定にものさしがあるわけではありません から、多くの自由な表現の作品を前にして、受賞作を選ぶことに辛い思いがありました。主催者 「マヤ」の「新しい才能を見つけたい、それを多くの出版関係者に知ってほしい」という意向に 沿って、各審査員とも選ぶことになりました。
結果として、受賞作を見ると、主催者の目的が果たせたと思います。
市川賞については、作者の漱石作品に対するイメージが明解で、大胆で潔い表現に惹かれました。
それにしても受賞者、入賞者をはじめ応募者に女性が多いのに驚きました。「ダ・ヴィンチ」の 読者調査でも、年々女性読者の比率が高くなっていますが、男性は本を読まないのだろうか...。

(市川敏明/アート・ディレクター)


日頃、会社のイラストレーションの持ち込みも担当しているのですが、コンペはまた違いますね。 好きなものだけをチョイスしていく作業は楽しい。持ち込み作品を見ている時も思うことですが、 「いいところを探していこう....」と思って見ていると、段々いいところが見えてくるのだけれど、 それって本当はやっぱり違うのですよね。いいものは最初から素直に「いいなあ」と思えて、見 る側に余計な気遣いをさせないものだと思います。
という事で、今回選ばせていただいた作品は、なんだか全体にとても気持ちのいい、のびやか な作品ばかりになりました。(選考日がめちゃくちゃ暑かったせいもあるかも。そんなんで選ん でいいのか、とも思いますが、実際に本屋さんで買う時もその日の体調や気候に左右されたりす るのだからありでは、などと思いつつ。)
全体的な印象としては、センスのいい『いい感じ』な作品は多いのだけれど、こってり系とい うか、本格的に「う、うまい!」みたいな作品が少なかった気がします。もう少しそういう作品 も見たかったなあ。そうしたらどれだけ暑くても「いい」と思えたと思う。
入選しなかった作品にも好きな作品がたくさんありました。家にかざりたいです。

(大久保明子/文藝春秋デザイン部)


グッドです。いきなり二次審査かと思われるほどの高いレベルの作品が集まりました。応募作品のタイプもいろいろで絞りこむことがむづかしく、入選枠をすこし増やしてもらいました。全体を眺めててちょっと気になったのは、単にうまいだけかもと思われる絵が多かったこと。審査員を困惑させるような不思議に魅力のある絵が、もっと欲しかったです。
グランプリの宇田見ひとみさんは、二点の応募作どちらにも落ち着いた清潔感があり、好感が持てました。本の装画という観点から、今回は『あかね雲の中に』の方を選ばせていただきました。準グランプリの上野明美さん、色と線がいい。かなり描いてますね、しっくりきてます。別の作品も見たかったです。須藤由希子さんのジャン・フィリップ・トゥーサンのシリーズ連作、全体に漂う不安定な醒めかたが良かったです。『ためらい』は、ほどよく病的な緊張感とでもいえるムードが新鮮でした。
審査では、テクスチャー表現に向かいすぎた絵は、はずしました。また、「コンペに出すために絵を描きました。たとえばこんな本に合うんじゃないでしょうか」といったたぐいの作品はなるべくパスして、「この本の絵を描きたかったの!」と感じられる作品をなるべく選ぶようにしました。
好きな本の装画を描くこと、そんな幸せな時間を持つことってステキですよね。

(祖父江慎/ブックデザイナー)


今年も沢山の応募、ありがとうございました。作品を一点一点しっかり拝見しました。 古典から児童文学など、皆さんよく本を読んでいらっしゃるんだなーと思いつつ、コンペという形式上、作品に順位をつけなくてはならないことにちょっと残念に思い迷うことが多かった審査となりました。
去年の一回目に比べると作品の傾向が今年は少し変わりました。どちらかというとグラフィック的で、明快、主張がはっきりした作品が多かったようです。テキストによっては、もっと情的、且つ、こってりした質感のものがあってもよかったかなと思います。個人賞にはそういった感じのものを意識して選びました。他にも賞をさしあげたいと思う方が何人かいらっしゃいました。凄い力があるとわかる方も多かったです。主題をばーん、と描くだけではなく、描き手の個性や主観をもう一つ前面に出すと、見る側をぐっとひきつけるパワーと不思議な魅力があふれる作品になるのではないかと思うものが何枚もありました。
去年に続き参加をして下さった方も大変多く、私たちもより一層このコンペを充実させていきたいと考えています。目的意識をしっかりもった質の高いコンペを来年も開催いたします。そしてコンペに止まらず、仕事面でのバックアップをふくめてサポートしていけるように、私たちも努力いたしております。いっしょにがんばりましょう。

(大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA主宰)



COMPETITION 審査結果 受賞・入選作品一覧