ごあいさつ


グリム兄弟『子どもと家庭の童話集』を初めて出版したのが1812年、
それからちょうど200年にあたる今年2012年は、
ただ記念の年という意味をこえて、この2世紀にわたって、
わたしたちがこの文化的遺産にどう関わってきたのかを振りかえり、
そしてまた200年経っても、けして古びておらず、今も刺激的であるメルヒェンに
あらためて向き合ってみるよい機会だと思います。

グリム童話は、聖者伝説まで含めると210編のお話があります。
そのなかの有名なお話、『白雪姫』『ラプンツェル』
『いばら姫』
『灰かぶり(シンデレラ)』は、もちろんですが、
まだまだ知られていない魅力的なお話はたくさんあります。
そして、そのお話のなかで、美しく、辛抱強く、やさしく生きぬいていく女性たちの姿を、
これまでは男性にくらべて「消極的」「受身」と評価されることが多かったように思われます。
けれども、果たしてそうなのでしょうか。
いさましく冒険に出ていく男の子だけが活躍しているといえるのでしょうか。
ここらで読み方をかえて、グリム童話の女性たちの魅力を今に生きるわたしたちの眼で
再評価してみたらどうでしょう。
それも、言葉によるヘリクツ?ではなくて、絵画、イラストレーションによって
表現してみてはどうでしょう。

グリム童話が日本に初めて紹介されたのは、
明治20年(1887年)の呉文聡の『八ツ山羊』(オオカミと7匹の小羊)といわれています。
つまり、わたしたち日本人は、125年間、ドイツの、そして正確にはヨーロッパの昔話である
『グリム童話』とつきあってきたことになります。
ヨーロッパの文化をとりいれて、たくさんの影響をうけてきたわたしたち日本人ですが、
その文化をどのように消化して、どのような独自の表現として
オリジナルに向かって投げ返すのか?
そこに現代に生きるアーチストの心意気があると思います。
それはつまり、新しい解釈であるし、表現なのです。

グリム童話は、森の国ドイツになぞらえていえば、
どこからでも入っていけて、また、その森の中で思いがけない出会いが
待っている不思議の森であるということができるでしょう。
本展では、36人の画家たちが、グリムの森のなかで、特に物語の女性たちとどう出会ったのか?
それこそが、今、いちばん刺激的なことではないでしょうか。
さぞかし刺激的な出会いがあると期待しています。
その自由な発想こそが、実は大学の教授でもあったグリム兄弟自身が大事にしていたことなのです。
特に若い人には、とらわれのない自由な精神が必要だと書いてもいます。

企画展『グリム童話の女性たち』は、このような心意気を内に秘めて、
それぞれの画家たちがチャレンジする場なのです。

天沼春樹

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