藤田:
うちは日本経済新聞をずっととっているんですけどね
僕の口から「デフレスパイラルがどうした」とか
「デリバティブがどうした」って横文字経済用語がでると、
前はカミさんに「絵描きなのになんでそんな話ばっかするの?」って
よく言われたんですよ。
でも、絵描きであろうがミュージシャンであろうが、銀行にお金預けたり、
保険に入ったり、税金払ったり、日々経済の中で生きているわけですよね。
○ロックミュージシャンがステージを降りたら株式投資をしていたり。(笑)
藤田:
実は、遙か昔から経済と芸術の間には切っても切れない関係があったんですよ。
例えば17世紀にオランダで起きた世界初のバブル「チューリップバブル」。
(チューリップの球根の値段が家の値段と同じくらいまで高騰したという)
これが起きた時期1630年代後半ってオランダ経済は絶好調なわけですが、
実はレンブラントの活躍のピークとも重なってるんですね。
当時、やたら金回りに良い医者とかから「集団肖像画」という
セレブ達を集団で描く大きな仕事が舞い込んだりしてたんです。
○レンブラントの「夜警」をはじめ、オランダ絵画でたくさん観ることができますね。
藤田:
レンブラントは大きな家を買ってそこを自宅兼工房にして、
アシスタントを雇って次々と依頼された仕事をこなしていったんです。
ただ、一旦膨らんだバブルはいつかしぼむっていうのはいつの時代も同じで。
晩年は仕事も減り、おまけに住宅ローンの返済に苦しみ、
非常に困窮した生活を強いられるようになったんです。
○ 現在、美術館で多く観られるような宗教をテーマにした絵画でも、
教会であったり権力者といったクライアント、スポンサーとの関係は
切り離せないですね。
藤田:
そうですね。
たとえば17世紀のフランドル地方は植物から繊維をつくるリネンの産業が盛んで
やはり経済は絶好調だった訳ですよね。
でも当時ってそういう羽振りの良い地方は他所から侵略を受けるんですよ。
だから事業で成功し財を成した人達は、家内安全などの祈りも込めて
教会に絵画を奉納したりした。
そういう注文が殺到してやはりアシスタントをやとって絵を量産していたのが
ルーベンスだったりして…。
こういう当時の画家とクライアントの関係をくわしく書かれているのが
「ルネサンスの芸術家工房」という本。
とても興味深いです。
○ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ…みんなそうですね。
藤田:
うん。
今のイラストレーターの仕事なんかより、ずっと厳密な契約書が交わされてるんですよ。
締め切りは勿論。金箔はこの金貨を叩いて箔にしたのを使えとか。
○細かい!
藤田:
当然肖像の中にクライアントを登場させよ、しかも男前に…とか(笑)。
かなり厳しいの。
○今で言う「盛る」ということですね。(笑)
藤田:
これを読むと注文されて描く絵は「コマーシャルアート」で、
自発的に描くのが「ファインアート」なんていうジャンル分けが、
殆ど無意味っていう事が理解出来ると思う。
宗教画のことをイタリアでは「ストーリア」(storia・物語画)って言うんだけど、
だから、ダ・ヴィンチやボッティチェリの絵は、
実はクライアントの注文に従って聖書のワンシーンを描いた
究極のイラストレーションと言っても良いかもしれない。
○そのあたりの背景を知って絵画に接すると、また違った見え方ができそうです。
背景といえば、政治もまた美術に強く大きな影響を持っているということを
以前からお話されていましたね。
次回、詳しくお聞かせいただこうと思います。