その内面までもが透けて見えるような、細やかな表現で描いた人物像を得意としていらした服部さんですが、今回は画面の中に全く人物が登場しない作品ばかりが並びました。
描かれていたのは、植物や果物、静物、風景。そして姿はありませんが、「もの」や「景色」が記憶する、かつてそこにいた人々の気配。それは残り香のように画面に静かに漂います。
タイトルは[slider] 。「なんだか語感も良かったから!」と軽やかに云いながらも、いつもこだわりを見せている彼女がつけたその言葉を直訳すると「変化球」という意味があります。また語源の [slide]には「滑らかに動く」とか「(時が)知らぬ間に過ぎ去る」と云った意味もあり、今の服部さんの様々な面を象徴しているようでした。
時間の経過と共に出来た傷跡やペンキが部分的に剥がれた状態。服部さんは、そうしたものからインスパイアされることが多いとおっしゃいます。今回の作品には、それらに加えて「陰」もまた“服部さん流”の美を表現する要素の一つとして効果的に描かれていました。
今では目にすることの少なくなったシーソーやジャングルジム、ブランコなど遊具をモチーフにした一連の作品は、作家の家の近くにある公園に足を運んで撮影し、それをもとに描いたとのこと。赤く細い紐がたゆみ、纏わりついた様子は、様々なイメージを喚起させるようで作品を前にした人からは、さながら心理テストのようにバラエティに富んだ感想を聞くことができました。