COMPETITION


審査員講評

装画を描くコンペティション vol.4 審査を終えて





仕事柄、若いイラストレーター(や、そのタマゴの人達)の作品に接する機会は多いのですが、今回の審査のように一度に大量の作品を目の当たりにするのは初めての体験でした。量だけではなく、その質の高さや、熱気に圧倒される思いでしたが、応募者の想いを充分に受け止めることが出来たのか少し心配になります。
装画を前提としたコンペということで、日々装幀の仕事に携わっているため、ついつい本の仕上がりをイメージしてしまい、少し点がカラくなってしまったかも知れません。
装幀におけるイラストは、テキストに対する感受性と、それを咀嚼し表現する感性と技術が求められると思っています。
数点の作品でそのすべてを推し量ることは難しく、将来性や可能性よりも、確かな表現力や完成度の高さが選択の基準になりました。
本づくりの「現場」で、入選された方たち、惜しくも選外となった方たちと再会出来ることを愉しみにしています。

大森賀津也/新潮社装幀室次長


大きな森の中へ迷い込んだ。出口を探すために、休憩しつつも、そこいらじゅう何回でも歩き廻る。歩き廻っていると、花や動物や人や風景などおもしろそうなもの、なんとなく惹かれるものに近付いてみたくなる。きれいなもの、形のおもしろいもの、ものによっては手でふれてみる。たぶんそのものに呼ばれているのだろう。出口が近くなるにつれ、そういうものたちをどんどん細かく裏表すみずみ見てしまう。 迷い迷って出口を見つけ、場を去ろうとするのだが、はたしてこの選択でよかったのかはわからない。しかし、自分では「これでいいのだ」といえる。
たくさん好きな絵はあった。自分で決めたテーマの本を読んでその物語の素敵なところを見つけて、自分なりに表現していると思った絵には、 心が動かされた。たくさんの絵の中で手描きでタイトル文字と著者名が入っているものがあった。この著書に想い入れがありすぎて、おもわず文字を描きこんでしまったのかはわからなかったが、文字がうまく絵の一部になっていてとても気になった。
うまいだけではなく、グランプリは、爽快さ。準グランプリは、描かれている人物の強さ。個人賞(池田賞)は、かわいらしさ。それぞれのナンバー1なのではないかと思う。
賞をとられた方、残念ながら今回は賞を逃した方、純粋な気持ちになって、もっともっと楽しんで描いてみてください。たくさん描いているうちになにかが見えてきて、絵を描かずにはいられなくなるはずです。
今回は、いろいろと勉強させていただきました。ありがとうございました。
本屋さんで並ぶ装幀は読まれるのを待っている。創り手がその本の魅力をより深く理解することによって、なおさら装幀を光り輝かせて読み手を誘うのではないかと信じている。

池田進吾(67)/デザイナー


今回、審査中に気になったことは、あっさりとした「空間、生かしてみました」という感じの作品が多かったことです。上手な方もいたのですが、同様の作品が並ぶことで、コンペという場では損をしたかなと思います。それでも、入選作を決めるあたりからは、それぞれ持ち味のある作品が残り、審査の難しさを感じました。
グランプリの加トさんは、粗審査の時点から目立っており、鮮やかな色と大胆な構図に巧さを感じました。一緒にお仕事したいです。
準グランプリの植田さんも、最初から気になっていたので、納得の受賞です。他の題材で描いた作品も見てみたいです。
高柳賞の山田さんに関しては、画面全体に不思議な魅力があるものの、「装画」としては問題点も多く、審査が進むたびに残すべきかどうか悩みました。今回の『少女地獄』にはあっていると思い、個人賞ということで選びましたが、独り善がりにならずに描いていけるかが、これからのポイントになっていくと思います。
全体的に、絵として魅力のある作品は多かったのですが、最終的に商品として人目に触れるのは、 原画ではなく印刷物です。実際のサイズになった時、文字要素が入った時、そして印刷された時にどう見えるのかということを考えるのも大事だと思います。

高柳雅人/角川書店装丁室


猛暑の中での審査となった装画コンペVol.4、過去最大の参加者の迫力ある作品を前に 審査員一同真剣に、また思いがけない表現に出会う度、時に楽しみや驚きをもって審査作業をさせていただきました。
今年はリピーターの方も大変多く、そういう方達がどんどん表現力を増し、選んだテキストに対する読みの深さを増していらっしゃる事に驚きと期待をかんじました。そのせいか作品返却につけるコメントも、つい辛口になり、遠慮のない意見をいわせていただきました。
装画はイラストの中でも、特殊な条件が要求される分野です。それは上手い、下手ということと別に、与えられた本のイメージをいかに魅力的に表現し、伝えるかという使命をもつことからスタートする世界です。
従って描くほうににはかなりの内容に対する読み込みと、それをどう表現するかという構成力、見る人に訴えるある種の演劇的ともいえる技が要求されます。一にも二にも描く人のセンスが重要なファクター。遊ぶ事を含め日常の生活全般の些細なことでセンスを磨き、GETできる技でもあります。惜しくも選外となられた方、沢山のきらりと光るものを持っていらっしゃいます。ぜひ、またチャレンジして下さい。

大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA主宰



審査結果 受賞・入選作品一覧 各受賞者紹介