COMPETITION


審査員講評

装画を描くコンペティション vol.3 審査を終えて





自分の編集する出版物にイラストレーションを多用し、誌上ではあるがコンペ審査員の経験もある。イラストに強い編集者を自認しているのだが、今回の審査は、正直難しかった。
 なぜなのだろう、と考えて思い当たった。応募者は、どこまで考えてやるべきなのか、「装画」の領域はどこまでなのか、応募している人によってまちまちなのだ。
 本の内容に良く合わせて仕上げている、そのまま表紙にしてもOK、と思われる提出物が良いのであろうか。それなら、このねじめさんのだ。デザイン上、題名ほか文字の置き場所まで考えてある。(ねじめ正一氏の著書2冊の装画/常夏健氏)。あるいは、イラストそれ自体にデザイン的要素を含み、3冊分を微妙に変化させているこの人など、即戦力になるだろう。(「マザーグース」ほかの木村晴美氏)
当初、選びが快調であったのは、こうした観点で選んでいったからだ。ところが、ある時点から、はた、と、詰まった。この選び方をしてゆくと、何か、手の内からもれるものがある_と、気づいたのだ。心に残る、あるいは、絵としての魅力のある作品が落ちてしまう。
 基本に立ち帰って考えた。僕らは、イラストを依頼する場合、どうしているか。まず、もとになる本(著作)を決めるのは編集者だ。もとになる本があり、これに合うイラストはどれか、と、探すのは編集者でありデザイナーだ。そして、見つかったイラストを本に合うように持って行くのも我々の側の仕事だ。(ラフを作りそれに合わせて改めて描いて貰う。イラストをトリミングする)_とすれば_そう、いつものようにイラスト単体の魅力で判断しよう、と、原点に立ち戻ったら、選びは楽になった。
 しかしながら、私の選びに、見せる要素=「商品力」は欠かせない。で、ポイントは (1)いまの気分があるかどうか (2)新鮮かどうか、新しい要素があるか (3)開かれているか=「商品」として、合目的に使用されることを拒んでいないか、となる。
 グランプリ、準グランプリの二つの作品には魅力と商品化に耐える力があり、私個人の賞の松田圭一郎さんの作品は、デザイン次第で面白い仕上がりになる。先々は、装画だけでなく、様々な場面に対応できるひとだ。

(石関善治郎/編集者 マガジンハウス 書籍部)


今ふり返ってみて、二つのことが印象に残る。第一次審査の荒選びの際に、残る作品が大変に多かった事。これは“装丁用装画作品という目的がはっきりしたコンペ”なので、本の中身のイメージを表現する際に働く“プロ意識”が出品作品のレベルを高めたのではないかと思う。ふだん、好きななものを、好きな世界を描き続けることも大事だが、ある目的をはっきり持って描く訓練はもっと大切だ。
川上成夫賞の今内慎之さんは、自分の強烈な世界観を持っていてとても印象的だが、出品作以外のほか本の装画にどう展開するのか予想できない分だけ新鮮であり、不安でもある。自分の内側をどう表現するかという事と、仕事として外側にどう展開して自分を見せていくかのバランス感覚が、プロとしてやはり大切な要素なのだ。ほかにも数名、すぐにも仕事になりそうな作家が発掘できたのは収穫であった。
二つめは、しかし、断トツのトップ賞作品が見当たらなかったことである。グランプリの武田典子さんの作品は、おしゃべりすぎずに、色も形も抑制して女性のイメージだけを残していて気持ちが良い。絵の中にタイトル文字要素が入りやすく、絵と文字との融合がスムーズになされるので装丁になった時に、読者にシンプルにメッセージが伝わりそうである。しかし、不満をひとつ言えば、描かれた女性がすべて同一人物であるかのような印象を受ける事だ。内面性を含めてこのような女性が好みなのはわかるが、何枚も見せられては飽きる。小説にはいろいろな女性が登場するのだから、やはりある幅を持たせた女の表現はしてほしいと思う。
準グランプリの石井弁さん作品は山本一力さんの世界観をうまく表現していて力量を感じた。時代小説の装画家が少ない中、石井弁さんと大矢麻哉子賞の宇野信哉さんが発見できたのは、望外の収穫であった。

<川上成夫/装丁家)


出版社内デザイナーという立場で、書籍カバーとして成立するかという視点からかなりシビアに選ばせていただきました。
1枚の絵として素晴らしいものは数多くありました。ドキッとするもの、目を凝らして見入ってしまうもの、部屋に飾りたいもの…、沢山ありましたが、「装画」としての魅力に欠けるものは断腸の思いで外しました。
 「装画」というジャンルは特殊です。この世界にいるとつい忘れがちですが、本は作品であると同時に、広く流通し定価をつけて売られる商品です。どんな本にしろ「はじめに中身ありき」で、本の中をカバーで具現化・抽象化して読者に伝えるのが鉄則。
絵だけがひとり歩きしてはいけませんし、もちろん内容を的確に示していない絵も然り。どんなに装画が素晴らしくても、それだけでは「本=商品」としての価値は決定しません。実際、カバーの絵のみに惹かれて本を買う人は全体のほんの数%だと思います。
それ以外の圧倒的多数の読者に対して訴えかける、さりげない、でもなんとなくいいなと思えるカバーを作ることも大事だと思います。ここでの絵、つまり「装画」は絵としての良さは大前提で、それ以上の強い力、つまり本の中身を理解し噛み砕いて読者に間接的に表現する包容力や文学的素質を求められます。
今回の審査基準はそれらの「総合力」。結果的にこの力を持つ方が世の中に広く出て行けるのだと思います。
 そういうことまでを真剣に考えさせられるレベルの高いコンペでした。「この人に仕事をまかせられるか」という点が入選とそれ以外を分けたように思います。

(平川彰/幻冬舎デザイン室 室長)


今回も多くの参加者を迎え、身を引き締めて緊張感をもって審査に当たりました。審査結果で紹介しきれなかった魅力ある作家、作品は非常に多く、返却の際にコメントしてお渡しいたします。
 今年もリピーターがとても多く、回を追う毎に装画という限定されたイラストレーションへのアプローチが的確になってきているようです。準グランプリの石井弁氏、大矢賞の宇野信哉氏をはじめとして時代物に挑戦した方も多く、すぐ装画、挿画としての戦力になると、感じました。時代物は独特の約束事が多いので時代考証などをしっかりやっていただくといいですね。
児童書 童話をテキストとして選んだ方、今年も多かったです。真面目に作品と対峙する姿勢がみえて、描き手の暖かな心を感じる作品など、印象にのこりました。
 装丁のためのイラストレーションには装画ならでは・・・、と要求されるものがあります。不特定多数の相手に興味を持たせるある種のcatchyな力、石関氏は商品力とおっしゃっていますが・・・、これはイラストレーションは商品であるという意味からも大切な要素ですよね。上手い絵、ということは必要条件ではあっても十分条件ではない。更に本の内容、空気、等をいかに的確に、自分のスタイルで表現できるか、いろいろ試してやっている方も多かったですが、どんどん自分へのハードルを高くしてチャレンジしてみて下さい。 あなたの感性がより豊かになって、技術と上手くマッチすると本という宇宙は一層魅力ある存在となってゆくと思います。 いつでも作品を拝見し、私なりのアドバイスはできますのでがんばってください。

(大矢麻哉子/ギャラリーハウスMAYA主宰)



COMPETITION 審査結果 受賞・入選作品一覧