個展の合間の雑談から

「好奇心をどれだけ持つことが出来るかが大切」と
藤田さんは常々おっしゃっていますが
この数年はブログ twitterを使って更に多くの情報発信、収集を
されていることと思います。

私も藤田さんにお会いするといつもいろいろと教えていただいていますが、
数年前に「スティーブン・ミルハウザー!すっごくイイよ!」と
教えていただき、その後、映画『幻影師アイゼンハイム』を観たのですが
耽美的で幻想的な世界にウットリしました。

藤田:
いいよね。なんか巷で人気のジェームス・ブレイクの音に似た
ニュアンスを感じたりして…(笑)

あのボワァァァンて音とかさ、幽霊が出てきそうな感じじゃない。
J・ブレイクって、古い教会でライブやったりして
カビ臭い図書館みたいな感じが好きかな…。

でも思ったんだけど、若い世代からああいう仄暗い、くぐもり感とか
カビくささが出て来るのって自然な事かな、なんて思ったりもする。

そうなんでしょうか。

藤田:
勝手な憶測だけど、イギリスの21才ってたぶん
ハリー・ポッター」の影響をもろに受けた世代ですよね。

○ハリー・ポッターですか?

藤田:
いいよ、ハリー・ポッター。
古い建物とか幽霊とか湖とか…随所に古いイングランドのイメージが満載で。
最初の方よりも、三作目くらいからがダークなムードになってすごくいい。

そんな世界に夢中になってた子どもがもう大人になっているんです。
出版業界ではああいうハリーポッター以後の、中高校生向けの小説の事を
YA(ヤングアダルト)って言ってるんですが、
いま展示している「ミッドナイターズ」なんかもそのジャンルの小説です。

東京書籍

深夜に時間が静止し、無重力の時間が訪れ巨大な黒い月が現れるという…。
ま、ダークフャンタジーですね。

大体その手の本は長編とか続きものが多いですけど
子ども時代から活字にたくさん触れるのはいいことですね。
それにいまの子どもたちはシビアな現実を生きているから
ファンタジーの世界で空想力や発想力を養うのもいいのかも。

藤田:
で、話は変わるんだけど、去年の年末に信州の渋温泉に行ったんだけど、
人里離れた鄙びた温泉街だから、さぞ、お年寄りの湯治場なんて思ってたら、
これが若者ばっかなんだよね…。

泊まった金具屋旅館がジブリの「千と千尋」のモデルだと、
ガイドブックに書いてあったから、ジブリ世代に人気なのかって思ったけど、
若い世代がああいうレトロな世界観に引きつけられてるって感じはするよね…。

金具屋 外観

もう一カ所お気に入りの別所温泉は「サマーウォーズ」の舞台だしね(笑)
で、その渋温泉金具屋の大広間が圧巻の建築美なんだけど、
そこで「温泉音楽」なるイベントがあって、いまMAYA2のBGMに流している
DJヨーグルト君なんかも出てるの、ちょっとびっくりしました(笑)

それって、藤田さんが時々おっしゃる「愛国消費」という言葉に
繋がるんでしょうか。

藤田:
あ、それは三浦展の本のタイトルね。
その本でこんな事が書いてあった。
人間ていうのは自分の中に物語というか目標みたいなものを持っていて、
ひとつ叶うと、その次の目標を見つけていくっていうわけ。
以前、日本人の多くは欧米への強い憧れがあった。
牛肉食いたい!ワイン飲みたいとかね。
要するに物質的な願望というか…。
でもいまはそういう願望が一段落して次なるステージに向かっていると…。

次なるステージとは?

藤田:
今度は「誇り」を持ちたい、と思い始めたんだよね。
それまで外にばかり目を向けていたのが
「いやいや、日本もいいぞ!」と思う若い世代が増えてきた。
着物とか、和食とか、茶の湯といった伝統文化とか……

例えば酒蔵の白い壁が並ぶ町並みなんかは凄く美しいんだけど、
僕らがワインばっか飲んで、日本酒の消費量が減って
酒蔵が経営破綻したら、そういう美しい風景自体も消滅して行くわけでしょう?

小布施 特産の栗の木のブロックを敷き詰めた小道

そこで、小布施の味噌屋で味噌を買うとか。温泉宿に泊まるとか。
愛国消費ってのは日本の文化とか風景を愛してます、という行為なんだよね。

和食、日本酒…!私も愛してます。(笑)

藤田:
そういえば、味噌をはじめ納豆、醤油、漬け物、酒…みんな発酵食品でしょ。
そういう文化を掘り下げている漫画に「もやしもん」ってのがあるよね。
あと、茶の湯と天下統一みたいなテーマの「へうげもん」っていう
古田織部の漫画も面白いね。

漫画の世界もより専門的なことになってるんですね。
愛国消費的なことで考えると、最近はサッカー選手をはじめ
「誇らしいな」という気持ちにしてくれる若い人が増えたように思います。
ほんの少し前までは「だから日本はダメなんだ」と
言いたがる人が多かったように思いますが。

藤田:
自虐しとけばいい、面白がってくれるし…って感覚があったんだろうね。
「アタシなんて、デブだからバカだから」って言ってりゃ
仲間外れにされない、嫌われないとかさ。(笑)
でも、逆に努力してスリムになって「アタシ、ナイスバディでしょ」って
自慢すると嫌われるっていう…。
なんかそういう感じはあるよね。
でも、そういう風潮もそろそろ終わりにしたほうがいいよ。
きれいな町並みにきれいなお姉さんが歩いている場面に遭遇したい(笑)

去年アレックス・カーが運営している京都の町家に泊まったけど、
ああいう外人が一生懸命、日本の伝統美を守ろうと頑張ってるんだからさ、
俺等日本人が目覚めないでどうするって、いう……。

Alex Kerr氏が運営する宿泊施設「庵」

たくさんの情報をいろんな形で受け取ることができる今だからこそ
新しいものや時代の流れに目を向けつつも、
日本に生まれ育った私たちのアイデンティティを再び見つめ直すときなのかも
しれないですね。

—— つづく
藤田新策ホームページ twitter
目次にもどる
←絵本のこと
→体を動かすことについて