絵本のこと

藤田:
絵本をやっている人に聞いてほしい話があってね。
小沢健二の父親のことなんだけど。

オザケンのお父さん。

藤田:
小澤俊夫さん。素晴らしいよ。
この人が何をしたかっていうとね、
口承文学といいまして。

はい。

藤田:
文字でなくて、口伝えされる文学ね。
日本だったら囲炉裏 の側とか、西洋だったら暖炉の側で
おばあちゃんが子どもに語るような、いろんな土地に昔から伝わる
ようするに民話だね。
その研究をしている日本の第一人者なんですよ、小沢俊夫さんは。

.

小澤征爾のお兄さんにあたる方なんですね。
すごいご親族…

藤田:
グリム童話」などのメルヒェンの研究のために
ドイツに行っていた。
だから小沢健二は多分向こうで幼少期を過ごしたと思うんだけど。
で、日本に帰ってからは当然、日本各地に伝わる民話の研究を
されたんですね。
河童がどうした…とかね。

日本にもいっぱいありますものね、座敷わらしとか。
ゲゲゲの世界だ。

藤田:
そうしたらね。
古今東西の民話の世界には
ある似通った定型パターンがあることに
気がついたというんです。
世界のあちこち、語られる場所は違えど
共通するものがあると。

なんなんでしょう?

藤田:
それは何かというと…
まず「出立」があって。

シュッタツ?

藤田:
うん。Departure

民話というものは大人が子どもに語るものでしょう、
大人が聞くのではなくて、子どもが聞くものだから。

はい。

藤田:
物語の始まりとして、
まず子どもが出立、家をでるわけです。
そして次にくるのがイニシエーション、
通過儀礼としてなんか辛く困難なことが起こる。

そうしたことを乗り越えて
最後に帰ってくる、というパターン。

ああ。そういうストーリー、たくさん思い浮かびますね。

藤田:
うん。
キングの「スタンド・バイ・ミー」だってそうでしょ。

新潮文庫

夏休みに死体を見に行こうって出かけた少年達が
次々と大変な目に会うじゃない。
機関車に追っかけられたり、沼に入ったらヒルに血を吸われたり、
年上の不良に因縁つけられたり。
でも最後はちょっと一回り成長して家に帰って来るという…。

そうでしたね、ワクワクして読みました。

藤田:
こういうのをね、
ドイツ語でビルドゥングスロマン 【Bildungsroman】
言うんだって。
未熟だった主人公が、周囲の人との関わりや出来事を通して、
だんだん大人になっていく。
つまり『成長物語』ですね。

昔話に限らず、たくさんありますね…
今度MAYAで原画を展示する、藤田さんの「ちいさなまち」もそうだ。

そうえん社

藤田:
ちっちゃな女の子のプチ「スタンド・バイ・ミー」?(笑)

藤田さんは絵本は以前からやりたいと思っていたんですか?

藤田:
僕はね、もともとはまったく興味なかったの。

そうなんだ!

藤田:
ちょっとだけ興味を持ったきっかけは、
20年くらい前にオールズバーグの絵本を見て
素晴らしいなって思った。

映画にもなった「ジュマンジ」の原作者ですね。
でも、それからご自身の本の出版まで時間がかかりましたが…。

藤田:
いつかはやってみたいなと思ってたけど、
ある絵本編集者に
「絵描きはすぐに絵でみちゃうじゃないですか!」
「だからダメなんです!」なんて言われたことあって。(笑)

(笑)

藤田:

そんなこと言われても、やっぱり絵で観るよなあ、って思ってた。
ま、そんなわけで一度考えるのをやめてたんですよ。

でもさ、
お話を耳から聞いて頭の中でシーンを想像するなら
さっき言った口承文学や昔話みたいなものがあるし、
自分で字を読んで場面を想像したり物語を咀嚼するなら
児童文学ってものがあるんでしょ?

確かにそうですね。

藤田:
でも絵本ていうのは、
昔話みたいに「女の子がおったとさ」とか
文学みたいに「その子は年は四才で髪の毛をお下げに結った…」とか
音声や言葉で描写するんじゃなくて、
説明しなくてもすでに絵として描かれているわけじゃない。

読み手がその部分のイメージを膨らます必要はないわけだ…。

藤田:
だから極端な話、
優れた文学は言葉で全てを描写しているわけだから
画像はいらないし、
逆に絵本はすでに絵で全部描写しているわけだから
言葉は不要なわけでしょ。
昔話は聞くもの、小説は読むもの。
そして、絵本は絵を見て物語とか色んな事を想像する
メディアというか…。

たしかに自分の子ども時代を思い出してみると、
絵本の一頁をずーっと眺めて、
細部に自分のお気に入りを見つけたりして
飽きもせずに空想遊びしていました。

藤田:
海外で文字のない絵本もいっぱいあるよね。
ブルーノ・ムナーリが描いてるようなやつとか。
あとユリ・シュルヴィッツの「よあけ」なんか
唐の詩人柳宗元の「漁翁」からヒントを得て、
湖に夜明けが訪れる瞬間を鮮やかに描いていますよね、

ユリ・シュルヴィッツ

藤田:
だから、絵本って物語を読んで可愛そうで泣けたとかさ(笑) 、
ある教訓を得たとかじゃなくて、
子供がビジュアルリテラシーを身につけるメディアかなって
思うん ですよ…。
どういうことかっていうと。
メディアリテラシーってありますよね。

すみません、教えていただけますか。

藤田:
要するに。
1つニュースがあるとしたらね、
A新聞の記事、B新聞での記事、ネットでの伝えられ方…それらを情報を比較検討したり自分なりに咀嚼する能力のこと。

なるほど。

藤田:
絵本ていうのはさ、
文字を覚えたりお話を覚えるメディアではなくて。
絵をみて視覚的なリテラシーを養うものだと思うんだ。

ああ、確かに。

藤田:
だから僕の絵本は、水に映った景色が鏡みたいに穏やかな場面もあるけど、
風が吹くとゆらゆらゆれたりして、しだいに暗くなって
そんな情景からで女の子の心理状態なんかを想像していただけると
嬉しいんですけどね。

で、最後はハッピーエンドなんですね…。

藤田:
うん。
キングとか描いてたイメージで僕の作品を観てくれてた人は
「あれっ」って意外に思うかもしれない。

正直なところ、私も最初に本を開いたときはそう思いました.

藤田:
でも、こういうシビアで殺伐とした時代だからさ、
ちょっと怖いめや、不安な気持ちになったけど
最後には家族の温もりがある家に帰ってゆく…という
ハッピーエンドがいいよ!って思ったんだ。

だからCOOL JAPANじゃなくてWARM JAPAN。
「そのぬくもりに用がある」(笑)

○あはは。
オザケンパパから始まって最後にサンボマスターきましたか!
HOTな締めです。(笑)

—— つづく
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