坂川栄治展「もう一つの顔」

6月27日(月)〜7月2日(土)

イラストレーターに大人気の装幀家、坂川栄治さんの個展です。注目の若手イラストレーターの作品を使った架空のブックデザインと、その素材となるイラストレーションを一緒に展示いたしました。

本はすべて以前に坂川事務所によるデザインで出版されたもの。新しい顔に生まれ変わった本を手に開いてみると、扉部分には実際に出版されたときのデザインをご覧いただけるようになっていました。



ホステスと鳩 (坂川栄治)

本の装丁という仕事は不思議な仕事である。こちらからコレをやりたい、アレをやりたいと言うことができない、ただただ出版社から声が掛かるのを待つ仕事である。だから私は自分の仕事をときどき、指名を待つクラブのホステスのようだな、と思うときがある。
「仮」装丁17册展は、そんな仕事の流れをたまにはひっくり返し、装丁家の独断と偏見のビジュアル優先で装丁してしまおう、という企画である。可能性を秘めたイラストレーター17人の未使用の有りものイラストレーションを使い、ダミーの装丁をするという本物の装丁を想定したデザインの試みは、ひょっとしたらこんな顔もあったかもしれないという「もうひとつの顔」展でもある。
よくカバーデザインは「本の顔」だと言われる。が、それでは本屋さんの平台に並んでいる本が一番いい顔なのかというと、そうとも限らない。完成本になる仮定では様々な人たちが関わるし、色々な条件をクリアしなければならないから、そう単純にはいかない。本もひとつの商品である以上、美しいだけでなく売れなければならない。一番いい顔イコール一番売れる本とはならないから、「本の顔」作りというのもそれなりに大変なのだ。
どこかの出版社のある編集者の頭でポッと企画がひらめく。ついでに「本の顔」をつくるために、ある装丁家の名前がポッとひらめく。そして編集者と装丁依頼の打ち合わせ中、装丁家の頭にあるイラストレーターの名前がポッとひらめく。そうやって出版社の集中する東京では至るところで、ポッポッポッポーと鳩の歌のような音が、出版点数の数だけ毎日どこかで聞こえているというわけだ。
そう考えると本を作る仕事というのは、偶然が必然に代わるためになんと不思議なひらめきの音に満ちた仕事なんだろう、と思うのである。
新人イラストレーターよ、早く名前を覚えられる鳩になりなされ。



<参加作家>
井筒りつこ・EMI・オオツカユキコ(スズユキ)・楠裕紀子・くまあやこ・河野康子・スドウピウ・祖父江ヒロコ・武田典子・たけわきまさみ・トリイツカサキノ・満岡玲子・森田サトル・籔田洋嗣・山口珠瑛・山崎杉夫・吉田圭子



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